恋がはじまる日
 ふと椿の視線が下に降りたかと思うと、彼はまた驚いて大声を上げる。


「あっ!美音、怪我してんじゃん!大丈夫?」


 ばれないようにしていたつもりだったのだけれど、椿は目ざとく私の手の絆創膏を見つけてしまった。


「平気だよ、藤宮くんが代わりにやってくれてるし」

「でも…あ、俺と代わる?料理運ぶのは難しくても、オーダー取るだけとか!」


 心配してくれた椿に対して、藤宮くんは大袈裟にため息をついて、彼の背中をぐいっと押した。


「お前、過保護すぎ。これくらい平気だろ。さっさと料理持っていけよ」

「ちょっ!美音!無理そうだったら交代するからね!」


 そう言いながら椿は藤宮くんに家庭科室を追い出されていた。


 藤宮くんはため息をつきつつ、こっちを振り返る。


「…なんだよ」

 二人とも仲良さそうで、ちょっと羨ましいと思ってしまった。

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