恋がはじまる日
藤宮くんのおかげで、ある程度野菜を切り終わってしまって、あとは注文が入り次第、足りない分を補うだけでなんとかなりそうだった。
するとちょうど、「佐藤さん、藤宮くん。職員玄関の方に業者さんから麺の追加届いたみたいだから、取りに行ってくれる?」と、クラス委員長から声を掛けられた。
「うん、わかった!」
そう返事をし、私達二人は家庭科室からすぐの職員玄関へと向かった。
野菜は近くに激安のスーパーがあり、足りなくなったらそこへ買いに行けばいいだろうということで、取り寄せはパスタの麺だけ。追加分の五箱が職員玄関に置かれていた。と言ってもこの麺が一番重くて大変。一箱持ち上げただけでも、すごく重かった。
何回か往復しないといけないかな?
少しふらっとしてしまったけれど、持てないことはない。気を引き締めて一歩を踏み出そうとしたところで、私の抱えていた箱を藤宮くんがひょいと持ち上げる。
「あっ」
軽々と五箱を抱え、さっさと歩き出す。
「ふ、藤宮くん!重いでしょう!私も持つよ!」
「これくらい俺一人で十分。…お前怪我してるし」
「え、でも、」
「これくらい迷惑とかじゃないから。持てるやつが持てばいい」
「う、うん…」
私が迷惑をかけてばかりでちょっと落ち込んでいたこと、ばれてたのかな。顔に出ていたのかもしれない。ぶっきらぼうだけれど、優しい言葉にひどく安堵する。
以前もノートを教務室に運んでもらったことがあった。あの時藤宮くんは、重いなら男子に頼れ、と言っていた。その後に、次からは、と言ってその続きは呆れてものも言えなかったのかな、と思っていたけれど、もしかして、「次からは、俺を頼れ」だったのかな。まさかね!それは思い上がりすぎだよね!
恥ずかしい想像を打ち消しながら、私は彼に駆け寄る。
「ごめんね、でもありがとう!」
いつも私を気にかけて、優しくしてくれる。私は藤宮くんに助けられてばかりだ。私は、そんな藤宮くんになにかしてあげられているかな。助けてもらうばかりじゃなくて、私も藤宮くんが大変な時に力になれたらな。
私も、藤宮くんのこと、友達だと思ってもいいのかな。
彼の表情からは何を思っているかは分からなかった。