黒い龍は小さな華を溺愛する。

ぐっと抑えたはずの心臓の音がまた早くなっている。


勘違いするな沙羅。


紫藤くんもさっき言ってたじゃない、常盤くんは面倒見がいいって。


きっと死のうと思っていた哀れな私を放って置けないだけだ。


うん……きっとそう。


私は何度も自分に言い聞かせてからアパートの階段を上った。



帰宅すると母は泥酔になっていて、案の定私に抱きついてきた。


そして毎度お決まり文句の


〝私には沙羅しかいない〟


といいながら泣きつく。


彼氏がいる時は私よりも彼氏を優先するくせに。


でも私はそんな母を慰めるのが恒例になっていて、そうすると自分自身も母に必要とされているんだって安心できた。


今日はなぜかモヤモヤしていた。


さっき常盤くんに自分を変えたくないのか聞かれたからだろうか。
< 69 / 140 >

この作品をシェア

pagetop