愚かな男を愛したセリーナ
手当の為にギルドに運ばれて来た時、血に濡れたセドリックを見たアイラは小さく叫んでいた。小さい頃から血を見ることが苦手で、自分の嫌なことがあると逃げ出す子だった。さすがに、念願だったギルドに就職できたからには、そこで働く者として看護する役目を放りださないと思うけれど。

セリーナはアイラを探すと、アイラは帰り支度をしていた。

「アイラ、あなたセドリックの看病をしなさいって、ギルド長に言われたんじゃないの?」
「えぇ? そんなの、嫌よ。あんな血だらけの人の看病なんて、お姉ちゃんがやっておいて。私、今夜はデートの約束があるから。髪の色だけ変えておけば、バレないわよ」
「……アイラ、そんなこと」
「じゃ、お願いね」

 アイラはそそくさと鞄を持つと、当時付き合っていた男の所へ行ってしまった。

 腹違いとはいえ妹だ。我儘が過ぎると思うけれど、ようやく得ることのできた仕事がクビにならないように、セリーナは咄嗟に髪を布で覆う。

そして自分も怪我をしていたのに、アイラのふりをしてセドリックを介抱した。

 流れる汗を拭き、熱で苦しむセドリックに水を飲ませる。一晩中傍にいたセリーナのヘーゼルの瞳を見たセドリックは、熱でぼうっとする頭で細く小さな手を握りしめた。

「き、君は誰だ」
「……っ、アイラ、です」
「そうか、アイラ、ありがとう」

 その日以来、セドリックはアイラに恋をしている。

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