ひとりぼっちの僕

成人式⑤

年末年始の休暇中は特に何もしなかった。

何もしたくなかったという方が正しいかもしれない。

スーパーで食材や缶ビールを買いだめし、家にいることの方が多かった。

家で調理をし缶ビールを開ける。

その繰り返しと言ってもいい。

年賀状は大学の友人からと先生からきていた。

大学の友人は結婚式の日はよろしくと書いてあった。

先生からは写真付きの年賀状だった。

どこかの温泉宿の前に成人した子供たちと三人で写っていた。

暴飲暴食はダメだよ?

下の方に書かれてあった。


仕事が始まると社内では新年の挨拶を交わし、それも2、3日すると通常の日常に戻っていった。

テレビでは成人式のニュースが流れていた。

ふと先生が紹介した女の子が今年成人式を迎えることを思い出した。

お祝いの電話をしようか迷ったがやめた。

彼女は彼女の生活があるし、大学を卒業した僕の役目は就職活動の話しかない。

就職活動と言っても僕もそんなに頑張ったわけではない。

彼女ならできると僕は思っていた。

先生も先生で紹介する相手を間違っていると思った。


2月に入ると街中はバレンタインデーの看板が増えた。

クリスマス同様に僕にはあまり関係のないことだった。

金曜日の夜がバレンタインデーということもあり僕はその日の夜、またバーに行った。バーにはほとんど客がいなかった。

テーブルに一組だけで他には誰もいなかった。

元先輩は煙草の煙を天井にはいていたし、マスターは椅子に座って映画を観ていた。

僕がカウンターに座るといつものようにビールとナッツをだしてくれた。

「あの日は無事に家に帰れたかしら?」

先輩が僕の元へ来ると聞いた。

あの不思議な体験を話すとマスターと目を合わせ、だいぶ酔っていたようだと言った。

たまたまバーの前を通りかかった女の子があなたをマンションまで送ると言ったからお願いしたの。

彼女はそう言ってビールを注ぎ飲んだ。
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