彼とはすれ違う運命
3度目の偶然は、紗英が結婚してからだった。
取引先の社員として働いていた大和と三度関係を持つのに、そう時間はかからなかった。
※
いつものように夫の出張中に大和との逢瀬。
二人の間に無駄話は一切ない。不倫だからだ。
お互いわかっていた。
いつか大和の、紗英の気持ちが変わってしまうのが怖くて。
恋人から奪う勇気もなく、それでも惹かれ合う気持ちが止められない。
人に言えない関係だから。
せめてものルールで決して言葉に出さない。
その代わり、身体中で相手への想いを紡ぐ。
好きだ。
愛してる。
その2つの言葉を眼差しに、唇に、指先に込めて。
「なぁ、紗英」
彼が帰り際、珍しく話しかけてきた。
「何?」
紗英の返答は短い。下手に情を入れないためだ。
少しだけ言い淀んだ彼は、覚悟を決めたように言葉を放った。
「旦那と別れるつもりあるか?」
二人の間にあった暗黙のルールを破ったのは大和だった。
いつになく真剣な大和の表情に、紗英はこれが最後の分岐点と感じ取る。
大和と共に生きていくかどうかの。
一瞬の内に色んな感情がよぎる。
だが、答えは決まっていた。
「……ないわ」
少しだけ声が震える。つばを飲み込んで、紗英は大和の顔を正面から見据えた。
「約束したもの。病めるときも健やかなるときも一緒に歩むって」
「そうか」
長い沈黙の後、大和はそれだけを言った。
寂しい笑みをたたえて。
※
大和が海外の支店に転勤になったと知ったのは、彼が日本を立ってから1ヶ月後のことだった。
紗英はそっとお腹を撫でる。
お腹の中に宿っている命。時期的に夫の子か大和の子かはわからない。
だが紗英は、大和の子だと確信していた。
「元気に生まれておいで」
誰にも話さない、紗英だけの秘密。
愛おしそうにお腹を撫でながら、紗英は夫と決めた名前で呼びかける。
「愛してるよ、大和」
取引先の社員として働いていた大和と三度関係を持つのに、そう時間はかからなかった。
※
いつものように夫の出張中に大和との逢瀬。
二人の間に無駄話は一切ない。不倫だからだ。
お互いわかっていた。
いつか大和の、紗英の気持ちが変わってしまうのが怖くて。
恋人から奪う勇気もなく、それでも惹かれ合う気持ちが止められない。
人に言えない関係だから。
せめてものルールで決して言葉に出さない。
その代わり、身体中で相手への想いを紡ぐ。
好きだ。
愛してる。
その2つの言葉を眼差しに、唇に、指先に込めて。
「なぁ、紗英」
彼が帰り際、珍しく話しかけてきた。
「何?」
紗英の返答は短い。下手に情を入れないためだ。
少しだけ言い淀んだ彼は、覚悟を決めたように言葉を放った。
「旦那と別れるつもりあるか?」
二人の間にあった暗黙のルールを破ったのは大和だった。
いつになく真剣な大和の表情に、紗英はこれが最後の分岐点と感じ取る。
大和と共に生きていくかどうかの。
一瞬の内に色んな感情がよぎる。
だが、答えは決まっていた。
「……ないわ」
少しだけ声が震える。つばを飲み込んで、紗英は大和の顔を正面から見据えた。
「約束したもの。病めるときも健やかなるときも一緒に歩むって」
「そうか」
長い沈黙の後、大和はそれだけを言った。
寂しい笑みをたたえて。
※
大和が海外の支店に転勤になったと知ったのは、彼が日本を立ってから1ヶ月後のことだった。
紗英はそっとお腹を撫でる。
お腹の中に宿っている命。時期的に夫の子か大和の子かはわからない。
だが紗英は、大和の子だと確信していた。
「元気に生まれておいで」
誰にも話さない、紗英だけの秘密。
愛おしそうにお腹を撫でながら、紗英は夫と決めた名前で呼びかける。
「愛してるよ、大和」