狂おしいほどに愛してる。
「しばらく会えない」
「……そっか」
「寂しい?」
「……寂しくなんかない」
情事後のベッドの上で、彼は決まってタバコを二本吸う。
キスのほろ苦さは、多分このタバコの味。
私を試すような視線から逃れるように散らばった下着や服を拾い、身につける。
「……帰んの?」
「……やっぱ泊まるのやめとく。明日朝早いし」
「ふーん。そっか」
彼は、私を引き止めたりしない。
彼は、私を追いかけもしない。
ただ、そこに存在して私を縛り付ける。
少しは手を伸ばしてほしい。少しは心配してほしい。少しは眉を顰めてほしい。
そんなちっぽけな願いが彼に届くことは、無い。
「気を付けろよ、ユリ」
「……うん」
残酷なまでの優しさに頷くと、逃げるように鞄を持ち部屋のドアに手をかける。
「……もう」
もう、連絡してこないで。もうこんな関係、終わりにしよう。
そう言えたら、この胸に渦巻くどす黒い感情が少しは薄れるのだろうか。
他人の夫と寝てるという罪悪感、いつかこの関係が彼の奥さんにバレて、夜道で刺されるんじゃないかという恐怖心。それらが薄れる代わりに、この関係を終わりにすることでどうしようもない寂しさに押し潰され、心が壊れてしまうのではないだろうか。
「なんか言った?」
一緒にいたい。でも、一緒にいてはいけない。
こんなにも好きなのに。私たちは結ばれてはいけない。
自分の運命が、憎くて苦しくて。
もうちょっとだけ。あと少しだけ一緒にいたい。
そんなことを口にしてしまえば、彼は昔のように私を愛してくれるだろうか。結局は自分のことしか考えていない私自身に、反吐が出そうだ。
「……ううん。なんでもない。私帰るね」
今日もまた、彼に何も言えないまま部屋を後にした。