狂おしいほどに愛してる。
sideチハヤ
【もう、こんなことやめよう】
それを言うだけでいいのに、俺にはアイツを手放す勇気が無い。
俺にはアイツじゃない女がいて。一応俺は夫という立場なわけで。でもそれは俺の本意じゃない。
親に決められた相手との結婚生活なんて、息が詰まるだけだ。
父親が経営する会社のために結婚しただけで、相手にも別の男がいることはわかっている。お互い家には寄り付かず、俺は俺で自分で別に借りているこの部屋で寝泊まりする日々。
家庭なんてとっくに崩壊しているどころか、そもそも成り立っていた日が存在しない。
それでも、俺はあの女と別れることができない。
だからこそアイツを苦しめたくなくて、ずっと付き合ってきたアイツに自ら別れを告げたのに。
去年偶然街中で再会したら、仕舞い込んでいたはずの気持ちがまた再燃してしまった。
溢れ出てきて、止まらなかった。抑えられなかった。
アイツが出て行った部屋のドアをボーッと見つめる。
「……ユリ」
無意識に呼んでしまう名前。でも、アイツは俺のことを名前で呼んでくれない。