狂おしいほどに愛してる。
"チハヤ!"
幼い頃から屈託の無い笑顔で呼んでくれていたのに。いつから呼ばれなくなったのだろう。
俺がアイツを求めて"ユリ"と呼べば、決まってアイツは首を横に何度も振る。
本当はわかってる。
もうこんな関係、やめちまうべきだって。
アイツを苦しめてるだけだって。俺の自己満足でしかないんだって。
問題を全て先延ばしにして逃げ回っている最低な男から早く解放するべきだって。わかってる。
……けど。
「それができたら、こんなに苦労も悩みもしねぇんだよな……」
俺の下で目に涙を溜めながら快楽に溺れて行く姿が。
俺を求めて背中に腕を回すその仕草が。
必死についてこようと何度も重ねてくる唇が。
俺の下でよがるアイツの表情一つ一つが、頭にこびりつくように俺を魅了して何度も俺を深い沼に落としていく。
這い上がることなど許さない。そう言われているかのような深い底なし沼に一度沈んでしまった俺は、もうアイツ以外に魅力を感じない、アイツ以外を抱けない身体になってしまった。
着信を知らせるスマートフォン。その画面には父親の名前が表示されている。
どうせ明日からの出張の話と、後継ぎはまだか?とかそんな話だろう。
まだどころか、俺からそんな連絡がいくことは一生無い。
だって、俺はあの女を一度だって抱いたことが無いんだから。
アイツ以外の女を抱いて孕ませるくらいなら、死んだ方がマシだとさえ思う。
しかしそれすらもできない俺に、生きている価値などあるのだろうか。
応答されない電話はすぐに切れた。ちょうど二本目のタバコも吸い終わり、灰皿にぐりぐりと押しつける。
ついさっき、部屋を出て行く時にアイツが言いかけた言葉は、きっと俺が言おう言おうとしていることと同じだ。
もう終わりにしたい。そう言いたいんだろう。
アイツを縛り付けて苦しめている事実と、そんなアイツが好きで好きでたまらない、離したくないとさえ思う事実。
「……こんな人生なんて、クソ喰らえ」
父親に逆らえずにこんなことになっている情けない俺も、クソ喰らえだ。
呟きは、タバコの煙と一緒にどこかに消えて行った。