狂おしいほどに愛してる。
sideチハヤ
【全てを捨てて、俺と一緒に行こう】
そう言って駆け落ちすることができたなら。
何度も考えた。しかし、両親と仲の良いユリにそんなことは言えない。
再会した時に、もしかしたらという想いでユリを誘った。
頷いてくれたユリの身体は震えていて、こぼれ落ちる涙を何度も指で掬った。
俺たちは定期的に身体を重ね合わせるものの、そこに愛の言葉は無い。
お互いに口にしてはいけないとわかっているからだ。
口にしてしまったら、もう終わりだと思う。
だから、俺はユリに好きだとは言わないし、ユリも俺に何かを言うことは無い。
この曖昧で澱みに満ちた関係が、心地良いとさえ思ってしまう。
でも、ずっとこのままというわけにはいかないんだ。
いつか、俺たちには二度目の別れが訪れる。
……傷は浅い方が良い。そう言うけれど、こうなってしまった以上深く深く傷が刻まれてしまうのは明白。
なるべく早い方が良い。わかっているのに。
今日もユリを抱いた後。
「……チハヤ」
「……っ、どうした?」
数年ぶりに呼ばれた名前に、思わず身体が跳ねた。
バクバクと高鳴る心臓。嬉しくて、涙が出そうだった。