青時雨
周囲の客の悲鳴で店内が騒然となる中、片桐さんは耳障りな笑い声を発しながら私の首を締めあげ続ける。
意識が、遠のく──。
急に、片桐さんの力が緩んだ。
喘息のような息をして身を屈める私の前で、片桐さんが蒼ざめた顔で胸を押さえている。
草笛のような呼吸音がした。
片桐さんの身体が、壊れた自動人形のように力を失って、そのまま床に倒れた。
店員が慌てて駆け寄り、「救急車!!」と叫ぶ。
私は何もできずに、呆然と立ち尽くしていた──。
1時間後、私は近くの都立病院の救急処置室の横で、一人で座っていた。
私を取り囲んでいた警察官たちも、事情聴取を終えると一礼して署に戻って行った。
午後の救急受診者の姿は疎らで、白衣の医療スタッフが忙しそうに目の前を通り過ぎる。
私は乾いた唇を薄く開いて、ぼんやりと目の前の白い壁を眺めていた。
革靴が廊下を蹴る音が近付いて来た。
顔をあげると、がっちりとした背の高いスーツ姿が、目の前にあった。
「悠介さん──」
それ以上言葉が出なくて、私は彼の顔を見上げた。涙が溢れて、頬を伝った。
悠介さんは何も言わずに私の横に腰掛けて、私の肩を抱いてくれた。
私は彼の大きな肩に頭を預けて、声を忍ばせて、泣いた。