青時雨
私の首を締めて、過換気発作を起こして倒れた悠介さんの奥様は、過換気の症状が治まるのを待って専門の病院に入院になるのだそうだ。
悠介さんは疲れ切った顔でそう話すと、奥様の処置をした医師に呼ばれて席を立った。
私は悠介さんが戻るのを待たずに、ふらふらと病院を後にした。
タクシーを拾って編集部に戻ると、すぐにデスクに呼ばれた。周りのスタッフはいつも通り作業していたけれども、皆が横目で私の様子を窺っているのがすぐに分かった。
デスクは会議室に私を呼ぶと、扉を閉めて言った。
「話は聞いたよ、君と片桐社長がそんな関係だったとはね」
警察から照会があったのか、あの場に編集部の誰かが居合わせたのか──。
「勘違いしないでくれ、人の色恋に口出しするほど僕は野暮じゃない。他のみんなにも、この件は口外しないように釘を刺しておいた」
「……」
「その代わり、と言ってはなんだが」
デスクは私に一歩近付いて、
「これからも、我が社と片桐社長のパイプ役になってくれないか。コラムの休載はやむを得ないが、アパレルとのタイアップ企画や共同キャンペーンは、我々にもメリットが大きいからな。なに、君はこれまで通り、片桐社長と大人の付き合いを続けてくれればいいんだ」
私は虚ろな目で、デスクの顔を見た。
癖の強い人だけど、鋭い美的センスと幅広い人脈で、やり手の編集者だと尊敬もしていたのに。
私はその場で一週間の休職を申し出て、受理された。
これ以上晒し者にされることに、耐えられなかった。