青時雨

 ランチを終えて車に戻ると、悠介さんが切り出した。

「ご案内したい場所があります」

「どちらに連れて行ってくださるのですか?」

「ステンドグラスの美術館です。今日は天気が良いから、ステンドグラスが陽の光を受けて、ひときわ美しいと思いますよ」

「素敵」と、思わず声に出してしまった。

「取材で訪れたことがありますが、本当に素敵な場所で……。プライベートで来たいと思ったまま、果たせずにいたんです」

 学生のようにはしゃぐ私を、悠介さんは優く見守って微笑んでくれる。それが嬉しくて、私は彼の首に腕を廻して、そっとキスをした。

「ぜひ連れて行ってください、悠介さん」

 ステンドグラス美術館は、那須の森のなかに静かにたたずむ、石造りの建物だった。中世イギリスの領主の邸宅を模して造られていて、この建物の前に立つと、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような気分になる。

 車から降りた私に、悠介さんは微笑みながら手を差し伸べて、(いざな)った。

「行きましょう、純さん」

 私も微笑んで、彼の手をとった。
 彼と出会った伊東のマリーナでも、悠介さんは私に手を差し伸べて、導いてくれた。
 彼の手はあの日と同じように、大きくて分厚くて、暖かかった。
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