青時雨
美術館の建物に入ると、中はおとぎ話の領主の邸宅そのもので、採光窓に嵌め込まれた色とりどりのステンドグラスが、陽の光を浴びて謳うように輝いていた。
建物の奥からは、パイプオルガンの音色
も流れてきた。
オフシーズンの平日のためか、入館者は多くはなかった。
「奥のチャペルで演奏しているみたいですね」
悠介さんが言った。
「僕たちもご一緒させてもらいましょう」
チャペルの中は、壁一面のステンドグラスから紅や碧に輝く光が降り注ぎ、荘厳なパイプオルガンの音色と交わり合う、まさに天使が降り立つような空間だった。
私たちは他の入館者に混じって、使い込まれた木製の長椅子に腰掛けた。
祭壇には大きなパイプオルガンが備え付けられて、白いドレスを纏った髪の長い女性奏者が、身体をゆったりと揺らしながら美しい音色を奏でていた。
私は静かに息をしながら、その美しい色彩と音の輪舞曲に身を委ねた。
「純さん、ご存知ですか?」
悠介さんが小声で囁いた。
「このチャペルでは、実際に結婚式も執り行われるんですよ」
知っている。
浮気されて捨てられたかつての恋人と、こんな素敵な場所で挙式できたらと、私も夢見ていた時期があった。
小さく頷く私に、悠介さんはこう囁いた。
「結婚しませんか? 僕たち、この場で」
目を瞠る私に、悠介さんは、
「牧師も立会人もいない結婚式です。でも僕たちの愛は、誰にも認められず、誰からも赦されないものですから。せめて僕たち二人で、お互いを赦し合いましょう」
小声でそう言って、そっと微笑んだ。