片恋プロセス
3
華と結婚すると決めたのだから、
自分も華としっかり向き合い、
結婚生活は誠実であろうと努力しようと
思っていた。
ただ、今抱えてるプロジェクトが
あるから結婚式はすぐには出来ないと
伝えていた。華は無理やり結婚を
迫ったから俺の気持ちが固まるまでは
しなくて良いと言った。
新居は落ち着くまでは俺の住んでいる
マンション。両家への挨拶に顔合わせを
経て、華の大学卒業を待って入籍した。
そしてその日の夜、初めて華を抱いた。
華を抱くかどうかはギリギリまで悩んだ。華は俺との子どもを望んでいるのだから、いずれはそうするべきなのだろうが、
今の気持ちのまま華を抱いていいものか
迷っていた。それなのに寝るときなると、いつもは強気の華が両手を握りしめ、
緊張した面持ちで寝室に入ってきた瞬間、目を奪われた。気が付くと華の手を引き、抱きしめていた。若干震えてるのが
分かる。
“止めるか?”と尋ねると“絶対止めない”
とまたいつもの気の強そうな顔に戻る。 少しずつ進めていくと、初心な反応や
俺にしがみつき、必死に付いてこようと
する姿に煽られた。痛みに耐えている顔は可愛いとすら思った。間違いなく初めてだろう。俺は華の身体を知っている唯一なのだと優越感すら抱いた。これは一体どういう感情なのだろうか。
一緒に暮らし始めて、驚いたことは
華がしっかり家事をこなしていたことだ。
所謂、社長令嬢だから出来ない事も
多いだろうと思っていたが、
食事も掃除も完璧だった。朝は俺より
早く起きて準備をし、俺が帰るまで
起きて待っていてくれていた。
何時に帰れるか分からないから
先に寝てて良いと言っても、
“私がしたいだけだから”と
変わらなかった。
プロジェクトもいよいよ大詰めというとき、職場の同期に
“新婚なのにこの忙しさに奥さん理解あるよな”と言われた。
華は今のこのほぼほぼ放置している状況に文句一つ言わなければ、健気に食事を
作り、ひたすら帰りを待っている。
こんなもんなんじゃないの?と言うと
同期は“俺の彼女なんて、こんなに
放ったらかしにされて何があっても
文句は言えないとか言うんだぜ。
落ち着いたらご機嫌取りだよ。
お前、幸せだなぁ”
あぁ、俺は幸せなのかと漠然と思った。
仕事が一段落して、同期のご機嫌取りの
言葉に習って“何処か出掛けよう”と
華に声を掛けた。“デート!?”と
子どもの様な顔を向け、喜んでいる姿は
出逢った頃の好きだ、好きだと言っていた無邪気な様子思い出した。
いざ、行きたいところがあるか尋ねると
“何処がいいのか分からない。
皆どんなところに行ってるんだろう”
学生時代に行ったところでもどこでも
良いと伝えるも、“何処にも行ってない。
そんな時間無かった”と言う。まだ20代前半と若いのに“学生時代は勉強”だと
真面目な顔して言う華が可笑しかった。
思い返せば、華と会ってる時はいつも
勉強をしていた。まぁ、目的が
家庭教師的なものだったからなのだが。 きっと遊ぶ事より勉強を優先してたので
あろう。それなら学生時代に
出来なかった分、俺がいろいろな所に
連れて行きたいと思った。
それからは時間が合えば仕事帰りに 食事に行き、休みになるといろいろな所に出掛けた。夜は一緒に寝て、肌を重ねる。当初、気持ちが伴っていないからと
行為に及ぶ事を躊躇していた自分が
想像出来ない位に、その頃にはその行為に迷いなんて一切なかった。
日々、俺の中の華への感情が変化
しているのが分かる。美人で気が強く、
とっつきにくく見られがちだが、
笑うと幼さが見え、そのギャップに
胸が鷲掴みされる。
俺の前だけ表情がコロコロ変わり、
普段から想像つかない程に柔らかくなる
その全てを自分だけの物にしたいと
思う独占欲。
いつからそんな感情に変わったのか、
結婚するときに思っていた誠実で
あろうと努力すると決めた義務的な
思いが聞いて呆れる。そんな決意など
必要無かったかのように大事に
していきたいと思う気持ちが
大きくなっているのに気付いているの
だから。この気持ちをストレートに
ぶつけて思いっきり甘やかしたいと思う
反面、自分の心変わりの速さに
自分の事ながら戸惑う。