姫の騎士
「ロゼリア姫の噂は、眉唾ものの、ありとあらゆるものがあふれているから、すこしばかり真実が混ざってもわからないよ」
「それもそうね。真実のほうが、ぶっとんでるし。それに大丈夫よ。あなたとの話はここだけの話にしておいてあげる」
そして、女は一呼吸を置いていう。
「わたくし事なんだけど、最近ではね、カード織の織物を王室御用達の店に素材として提供したり、アクセサリーに加工して卸しているの。一緒にしたいという友人もいて忙しくなっていて」
「ああ、見せてもらった。机の上にあった。赤のリボンのブローチをたくさん作っているんだな」
「あれは、パレードの日に身に着ける、ご結婚を祝福する気持ちを表現したブローチなの。沿道で祝福をする人たちの胸に、赤のブローチが飾られていたら素敵じゃない?その織り生地をカードで作って、この1か月大変だったのよ」
思い出したのか、ふうっと女はため息をついた。
手に凝りが残っているのか、手首を振る。
再び、女は体をベッドに沈めた。
「……それで、夜の仕事も、新しく入った女の子に任せられるようになったらそれで終わりなの」
「……辞めるのか」
「そう」
淡々と進められた会話だった。、
この瞬間セルジオは女から別れをきりだされていることに気が付いた。
「……もう、会えないのか?」
「酒場に行ってもわたしがいないというだけよ」
「……では、あなたのこの家に来たら会えるのか?」
「それは、わからないわ。見ての通り、カード織りの道具類が増えて、手伝ってくれる人も増えているから、ここも手狭になってきて、便のいいところへ引っ越すことも考えているの」
先ほどまでの楽しかった気持ちが霧散する。
自分の一部が失われてしまったような、喪失感に不意に襲われた。
そのような衝撃を受ける自分に、セルジオは重ねて衝撃を受ける。
「セルジオは騎士になったのだから……」
わたしよりも素敵な人を結婚を前提として紹介されるでしょう。
そして、わたしのことなんて忘れてしまうでしょう。
あなたが来ない扉をひとりで見つめ続けるなんて悲しすぎる。
だから、わたしは忘れられるまえに、わたしからあなたを解放してあげる。
そんな、女の言わない声が胸に届く。
「あ、これ。あなた用に作ったの。一般用の祝賀のブローチは赤に黄色模様。あなたのは赤に黒で作ったの」
女はベッドから抜け出して一つを手にして戻ってきた。
押し付けられたのはちょうど手の平に収まる大きさの、リボンに結ばれた赤黒のブローチ。
「これは、靴紐の……」
「そう。あれと同じだけど、もう少し複雑にしたわ。今も紐を使ってくれて嬉しいわ」
女が笑った。
泣いているような笑顔だった。
セルジオはそれからどんな会話をして彼女の部屋を出たのか思い出せない。
どういう道で王城に戻ってきたのかも覚えていない。
黒騎士のジムに、何をもっているんだよと言わてはじめて、セルジオは赤黒のリボンのブローチを握りしめていることに気が付いたのだった。
「それもそうね。真実のほうが、ぶっとんでるし。それに大丈夫よ。あなたとの話はここだけの話にしておいてあげる」
そして、女は一呼吸を置いていう。
「わたくし事なんだけど、最近ではね、カード織の織物を王室御用達の店に素材として提供したり、アクセサリーに加工して卸しているの。一緒にしたいという友人もいて忙しくなっていて」
「ああ、見せてもらった。机の上にあった。赤のリボンのブローチをたくさん作っているんだな」
「あれは、パレードの日に身に着ける、ご結婚を祝福する気持ちを表現したブローチなの。沿道で祝福をする人たちの胸に、赤のブローチが飾られていたら素敵じゃない?その織り生地をカードで作って、この1か月大変だったのよ」
思い出したのか、ふうっと女はため息をついた。
手に凝りが残っているのか、手首を振る。
再び、女は体をベッドに沈めた。
「……それで、夜の仕事も、新しく入った女の子に任せられるようになったらそれで終わりなの」
「……辞めるのか」
「そう」
淡々と進められた会話だった。、
この瞬間セルジオは女から別れをきりだされていることに気が付いた。
「……もう、会えないのか?」
「酒場に行ってもわたしがいないというだけよ」
「……では、あなたのこの家に来たら会えるのか?」
「それは、わからないわ。見ての通り、カード織りの道具類が増えて、手伝ってくれる人も増えているから、ここも手狭になってきて、便のいいところへ引っ越すことも考えているの」
先ほどまでの楽しかった気持ちが霧散する。
自分の一部が失われてしまったような、喪失感に不意に襲われた。
そのような衝撃を受ける自分に、セルジオは重ねて衝撃を受ける。
「セルジオは騎士になったのだから……」
わたしよりも素敵な人を結婚を前提として紹介されるでしょう。
そして、わたしのことなんて忘れてしまうでしょう。
あなたが来ない扉をひとりで見つめ続けるなんて悲しすぎる。
だから、わたしは忘れられるまえに、わたしからあなたを解放してあげる。
そんな、女の言わない声が胸に届く。
「あ、これ。あなた用に作ったの。一般用の祝賀のブローチは赤に黄色模様。あなたのは赤に黒で作ったの」
女はベッドから抜け出して一つを手にして戻ってきた。
押し付けられたのはちょうど手の平に収まる大きさの、リボンに結ばれた赤黒のブローチ。
「これは、靴紐の……」
「そう。あれと同じだけど、もう少し複雑にしたわ。今も紐を使ってくれて嬉しいわ」
女が笑った。
泣いているような笑顔だった。
セルジオはそれからどんな会話をして彼女の部屋を出たのか思い出せない。
どういう道で王城に戻ってきたのかも覚えていない。
黒騎士のジムに、何をもっているんだよと言わてはじめて、セルジオは赤黒のリボンのブローチを握りしめていることに気が付いたのだった。