姫の騎士
17、プロポーズ (「姫の騎士」完)
荷物の箱から引っ張りだしたクッションを背にして、二人互いに体を寄せあいシーツを身体に巻き付けた。
あれから少しうたたねしては愛し合った。
セルジオは身体に絡まるアニエスの腕をそっと解いて、春祭りのためにそこかしこに出ている屋台の総菜を買いに行く。
アニエスの新居の周りをぶらりと歩き、住環境を確認する。
そしてまた部屋に戻って、アニエスがセルジオの代わりにしがみついていたクッションを抜き、自分の身体を滑り込ませた。
アニエスが目が覚めたら一緒に食べるつもりである。
「……もう、戻ってこないかと思ったわ。というか、戻らなくてもいいの?」
「俺は任務を遂行するまで戻れないんだ」
「任務ってどんな?」
「姫が俺に消えた怪しい女を追捕する任務を命じたんだ」
「怪しい女ってわたしのこと!?」
セルジオはにやりと笑い、額にキスをする。
「俺は有能だからとっくに捕まえた。だけど彼らはわからない。もう少し追跡していることにすればいい。アニエスが心配していくれているけど、俺の姫騎士は解かれるこどはない」
「わたしの自信満々さん。どうしてそう確信しているの?」
「それは、試験の時から思っていたんだが、姫の騎士はできる程度の男じゃ務まらないから。俺ぐらいの機転が利くヤツじゃないと。ある意味、黒騎士よりも替えのきかない重要な仕事だ。それに姫は良かれあしかれ人を惹きつける力が強いから、彼女の魅力に惑わない男が必要だ。その点俺は大丈夫。俺にはアニエスがいる」
身体を起しかけたアニエスをセルジオは腕をつかんで引き留めた。
引き寄せる代わりに、セルジオは体を起こした。
「アニエス。祭りが終わっても、もう、俺の前から消えてしまわないでくれ。俺が無事に職務を果たすことを祈っていてくれ。仕事を終えた俺があなたの元に帰ってくるのを、いつも待っていてほしい」
赤銅色の瞳がアニエスの目を覗き込む。
その目の真剣さと必死さと、情熱の強さにアニエスは目をそらすことができない。
「俺の父と母は戦場で出会い、恋をして母は俺を身ごもった。結局、父とは結婚はできなかったけれど、母を妊娠させた父の気持ちがわかるような気がする。自分がたとえ戦場で死んでも愛する女を一人にさせたくなかったからだと思う。俺はずっと兄弟が欲しかった。だから、俺は子供がたくさん欲しい。アニエスに似た女の子。俺に似た男の子。仕事でしばらくあなたの元に帰ってこれない日が続いても、あなたが寂しくならないように」
「それって、もしかして」
「俺の美しい人、アニエス、俺と結婚して欲しい。イエスと言ってくれないのなら、俺を酒場で何度も誘惑し、俺をあなたなしには生きられなくした罪で、一生俺の部屋に閉じ込めてやる」
じっと返事を待つセルジオの目に不安がよぎる。
セルジオの真摯で切実な気持ちはアニエスに伝わった。
二人のそれぞれの人生が、これから先、分かちがたく絡まって色彩豊かに織りなされていくのか、一瞬重なった景色の一つとして流れていくのか、その決定権はアニエスの手の中にあった。
自分はどう生きたい?
自分はこのあふれんばかりの情熱を持て余す男とどう生きたい?
アニエスの願望は明確である。
「わたしは閉じ込められるのは嫌よ。あなたの未来図はそのまま実現しないかも。あなたに似た女の子、わたしに似た男の子が生まれるかも!それでもいいなら、もちろんイエスよ!赤い騎士さま、あなたと結婚してあげるわ!」
セルジオはアニエスを抱きしめた。
アニエスに顔を押し付けたセルジオから、こらえきれない嗚咽が漏れる。
アニエスはセルジオの激情を受け止めた。
彼の熱が体に流れ込むのに任せた。
アニエスの心も体も温まっていく。
春祭りの間中、セルジオは王城に戻らなかったのである。
※
ロゼリア姫の騎士は、燃え上がるような髪に神秘的な赤銅色の瞳。
ロゼリア姫が公に姿を現すところには、必ず剣の柄に手を添えた姫の騎士がいる。
その剣で姫の命を守った逸話は数知れず。
子供たちの慰安に出かけたロゼリア王妃は、せがまれると己の騎士選びの話をする。
子供たちは大喜び。
「王妃さまが結婚まえに男装して、一緒にセルジオ様と試験を受けたの!?そんなの無理でしょう!?それから本当に、セルジオさまは王妃さまの祖国に一緒に逃走するつもりだったの!?」
「それは作り話ですよ。そもそも王妃さまが男になれるわけがないじゃないですか」
澄ました顔でセルジオは言う。
子供たちの矛先はセルジオに向かう。
「セルジオさまは三人も子供がいるって本当ですか?結婚してても騎士になれるのですか!」
「セルジオがプロポーズした時のお話をしましょうか。それは、王がまだ王子で成婚のパレードをしていた時に、大観衆のなかからたったひとりの別れた恋人を見つけたのよ。デビューだったのにも関わらず途中放棄し、彼女を追いかけたの。その後三日間、行方不明で、しれっと戻ってきた時には既に結婚されていたのですよ。その時にできた子供が……」
「ロゼリアさま、それも、100回はお話されているでは」
セルジオの顔は真っ赤である。
庶民から夢を掴んだ赤毛のセルジオの騎士物語に、子供たちは目を輝かせるのだった。
姫の騎士 完
最後まで読んでくださいましてありがとうございました!!
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藤雪花
あれから少しうたたねしては愛し合った。
セルジオは身体に絡まるアニエスの腕をそっと解いて、春祭りのためにそこかしこに出ている屋台の総菜を買いに行く。
アニエスの新居の周りをぶらりと歩き、住環境を確認する。
そしてまた部屋に戻って、アニエスがセルジオの代わりにしがみついていたクッションを抜き、自分の身体を滑り込ませた。
アニエスが目が覚めたら一緒に食べるつもりである。
「……もう、戻ってこないかと思ったわ。というか、戻らなくてもいいの?」
「俺は任務を遂行するまで戻れないんだ」
「任務ってどんな?」
「姫が俺に消えた怪しい女を追捕する任務を命じたんだ」
「怪しい女ってわたしのこと!?」
セルジオはにやりと笑い、額にキスをする。
「俺は有能だからとっくに捕まえた。だけど彼らはわからない。もう少し追跡していることにすればいい。アニエスが心配していくれているけど、俺の姫騎士は解かれるこどはない」
「わたしの自信満々さん。どうしてそう確信しているの?」
「それは、試験の時から思っていたんだが、姫の騎士はできる程度の男じゃ務まらないから。俺ぐらいの機転が利くヤツじゃないと。ある意味、黒騎士よりも替えのきかない重要な仕事だ。それに姫は良かれあしかれ人を惹きつける力が強いから、彼女の魅力に惑わない男が必要だ。その点俺は大丈夫。俺にはアニエスがいる」
身体を起しかけたアニエスをセルジオは腕をつかんで引き留めた。
引き寄せる代わりに、セルジオは体を起こした。
「アニエス。祭りが終わっても、もう、俺の前から消えてしまわないでくれ。俺が無事に職務を果たすことを祈っていてくれ。仕事を終えた俺があなたの元に帰ってくるのを、いつも待っていてほしい」
赤銅色の瞳がアニエスの目を覗き込む。
その目の真剣さと必死さと、情熱の強さにアニエスは目をそらすことができない。
「俺の父と母は戦場で出会い、恋をして母は俺を身ごもった。結局、父とは結婚はできなかったけれど、母を妊娠させた父の気持ちがわかるような気がする。自分がたとえ戦場で死んでも愛する女を一人にさせたくなかったからだと思う。俺はずっと兄弟が欲しかった。だから、俺は子供がたくさん欲しい。アニエスに似た女の子。俺に似た男の子。仕事でしばらくあなたの元に帰ってこれない日が続いても、あなたが寂しくならないように」
「それって、もしかして」
「俺の美しい人、アニエス、俺と結婚して欲しい。イエスと言ってくれないのなら、俺を酒場で何度も誘惑し、俺をあなたなしには生きられなくした罪で、一生俺の部屋に閉じ込めてやる」
じっと返事を待つセルジオの目に不安がよぎる。
セルジオの真摯で切実な気持ちはアニエスに伝わった。
二人のそれぞれの人生が、これから先、分かちがたく絡まって色彩豊かに織りなされていくのか、一瞬重なった景色の一つとして流れていくのか、その決定権はアニエスの手の中にあった。
自分はどう生きたい?
自分はこのあふれんばかりの情熱を持て余す男とどう生きたい?
アニエスの願望は明確である。
「わたしは閉じ込められるのは嫌よ。あなたの未来図はそのまま実現しないかも。あなたに似た女の子、わたしに似た男の子が生まれるかも!それでもいいなら、もちろんイエスよ!赤い騎士さま、あなたと結婚してあげるわ!」
セルジオはアニエスを抱きしめた。
アニエスに顔を押し付けたセルジオから、こらえきれない嗚咽が漏れる。
アニエスはセルジオの激情を受け止めた。
彼の熱が体に流れ込むのに任せた。
アニエスの心も体も温まっていく。
春祭りの間中、セルジオは王城に戻らなかったのである。
※
ロゼリア姫の騎士は、燃え上がるような髪に神秘的な赤銅色の瞳。
ロゼリア姫が公に姿を現すところには、必ず剣の柄に手を添えた姫の騎士がいる。
その剣で姫の命を守った逸話は数知れず。
子供たちの慰安に出かけたロゼリア王妃は、せがまれると己の騎士選びの話をする。
子供たちは大喜び。
「王妃さまが結婚まえに男装して、一緒にセルジオ様と試験を受けたの!?そんなの無理でしょう!?それから本当に、セルジオさまは王妃さまの祖国に一緒に逃走するつもりだったの!?」
「それは作り話ですよ。そもそも王妃さまが男になれるわけがないじゃないですか」
澄ました顔でセルジオは言う。
子供たちの矛先はセルジオに向かう。
「セルジオさまは三人も子供がいるって本当ですか?結婚してても騎士になれるのですか!」
「セルジオがプロポーズした時のお話をしましょうか。それは、王がまだ王子で成婚のパレードをしていた時に、大観衆のなかからたったひとりの別れた恋人を見つけたのよ。デビューだったのにも関わらず途中放棄し、彼女を追いかけたの。その後三日間、行方不明で、しれっと戻ってきた時には既に結婚されていたのですよ。その時にできた子供が……」
「ロゼリアさま、それも、100回はお話されているでは」
セルジオの顔は真っ赤である。
庶民から夢を掴んだ赤毛のセルジオの騎士物語に、子供たちは目を輝かせるのだった。
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藤雪花