姫の騎士
 王に常に付き従い、王だけの命令に従い、王を命をかけて守る。
 漠然と民を守るというよりも、ただ一人、王を守る騎士になりたいと思った。

 そう決意してから、騎士の募集がかかるときには応募した。
 王族の騎士だけでなく、貴族たちも自前の騎士を募集していた。
 セルジオは書類で落とされることもあったが、最終選考まで残ることもあった。
 ただ、合格しない。
 16歳で学校を卒業してからは、単発の雑用仕事を引き受けて日銭を稼ぎつつ、自主鍛練をする今につながる。
 そして、この一年間、騎士の募集はない。
 悔しいが、食堂の女のいうように、将来の生活の安定を考えると、治安警察兵や辺境警備兵の応募用紙に名前を書くのも、そう遠くない未来なのだ。

「はやいな、セルジオ」
 まだ誰も来ない道場で、ひとりで剣の型をたどるセルジオに声をかけたのは悪友のロッシ。
 ロッシは鍛冶屋の息子で同い年である。
 最近は身体は横に大きくなっている。
                                                   
「騎士の募集があるぞ、受けるか?」
「本当か!?王騎士か黒騎士か?募集は何人、試験はいつだ」
 ロッシはセルジオの勢いに苦笑する。
 手に持ったチラシをセルジオに投げて寄越した。
「王子の婚約者の姫の騎士。どうする?」
「姫騎士……」
 沸き立った血が、一気に下がった。

「がさつで、夜這いで、奇行の目立つ、ちょっと珍しい金髪の、田舎の姫か」
「なんだよそれ」
 ロッシは笑った。
「で、受けるのかよ?田舎でも姫は姫だから、お飾りにでも横に立つ騎士が必要なんだろ。どうする?」

 答えあぐねてセルジオはチラシに目を通した。


 アデールの姫の身辺警護の騎士を1名募集する。
 
 就任期間は無期限。
 合格後研修期間あり。
 報酬は個別相談の上決定。
 試験は、筆記、体術、剣術、持久力、マナーなど。
 応募者は、一週間を限度に共同生活し上記試験を実施する。
 性別は問わず、志の高い20歳までの若者の応募を望む。

 事務補佐官 スアレス
 責任者 ジルコン・フォレスト・エール

「ジルコン王子が責任者になっているということは、仕事といえば散歩のお供ぐらいのかったるそうなお姫さまの騎士とはいえ、王子の監督下にあるということだな。報酬も期間も未定なんてふざけてるな。だけど、受けるよ。一度なってしまえば姫騎士から黒騎士へ、横へ異動することもないとはいえないだろ」
 セルジオは言った。
「俺もそう考えた。これはチャンスだ」
 二人はにっと笑う。
 彼らは19歳。
 いつまでも御用聞きの雑用などしていられない。
 その日、セルジオとロッシは姫騎士選抜試験に申し込んだのである。




 
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