姫の騎士
「騎馬でしましょうか?」
ジルコン王子は視線を流し、ぴたりとセルジオの隣に止まる。
隣にはアンがいる。
ジルコンはじっとアンを見つめる。
おそらくアンも青灰色の美しい目で王子を見つめ返している。
なぜかセルジオの心臓は打ち始めた。
「まだ騎士でもないのだから馬なしだろ。俺の経験上、徒歩の方が危険に遭遇することが多いからな。明日は俺も見に行く。みんなの健闘を祈っている。今夜は早く休み、明日は心していけ!」
「はいっ」
答えがそろう。
「アン、部屋に戻るぞ」
名前を呼ばれ、アンはびくりと体を震わせた。
ジルコン王子の声は、ロサンやセルジオたちに話しかけていたものと全く違う、柔らかさがある。
来た時と同様に足早に去る王子の後を、全員の痛いほどの視線を受けながら、アンは無言で行く。
彼らの足音が聞こえなくなって、セルジオは息をつめていたことに気が付いた。冷たい汗が背中を流れていく。
セルジオだけでなく、ふうっと方々からため息が漏れた。
がたがたと椅子に腰を落とす音。
セルジオも倒れ込むように座った。
「アンが自由に動いているのは、アデールの姫の関係だからというよりもむしろ、ジルコン王子の方の愛人だからかもしれませんね。ジルコン王子は金髪好きなのでしょう。フォルス王がそっち方面が潔癖なところがあるために忘れがちですが、たいていの王族は、じゅくしきったイチジクのように、どろどろに爛れているものです。騎士とは善悪の関係のないところで、主を守ることが仕事ですし、主の下の事情は他言無用です。むしろこの秘密を守ることができるかどうかが、我々に課された試練なのかもしれません……」
カルバンは苦笑しながらセルジオに囁いた。
今受けた衝撃を吐き出さずにはいられない。
たった一言で、秘密は暴露されるものなのだ。
「まさか、ジルコン王子がアデール国の姫と美人な若者を両手に囲っているとは思いませんでした。アンは、騎士候補の情報を、毎晩寝物語にでも話しているのでしょう。とんでもないジョーカーですね」
ルイは唇を引き結び絶句している。
彼の規範意識からは受け入れられないのだろう。
セルジオもなんだか泣きたくなる。
ジルコン王子の一言で5人が落とされることが決まったことよりもむしろ、ジルコン王子とアンとの親密さに衝撃を受けていた。
セルジオはその夜、アンとアンによく似た顔をしたアデールの姫とジルコン王子が三人で閨で絡み合う、淫靡な夢を見たのである。
ジルコン王子は視線を流し、ぴたりとセルジオの隣に止まる。
隣にはアンがいる。
ジルコンはじっとアンを見つめる。
おそらくアンも青灰色の美しい目で王子を見つめ返している。
なぜかセルジオの心臓は打ち始めた。
「まだ騎士でもないのだから馬なしだろ。俺の経験上、徒歩の方が危険に遭遇することが多いからな。明日は俺も見に行く。みんなの健闘を祈っている。今夜は早く休み、明日は心していけ!」
「はいっ」
答えがそろう。
「アン、部屋に戻るぞ」
名前を呼ばれ、アンはびくりと体を震わせた。
ジルコン王子の声は、ロサンやセルジオたちに話しかけていたものと全く違う、柔らかさがある。
来た時と同様に足早に去る王子の後を、全員の痛いほどの視線を受けながら、アンは無言で行く。
彼らの足音が聞こえなくなって、セルジオは息をつめていたことに気が付いた。冷たい汗が背中を流れていく。
セルジオだけでなく、ふうっと方々からため息が漏れた。
がたがたと椅子に腰を落とす音。
セルジオも倒れ込むように座った。
「アンが自由に動いているのは、アデールの姫の関係だからというよりもむしろ、ジルコン王子の方の愛人だからかもしれませんね。ジルコン王子は金髪好きなのでしょう。フォルス王がそっち方面が潔癖なところがあるために忘れがちですが、たいていの王族は、じゅくしきったイチジクのように、どろどろに爛れているものです。騎士とは善悪の関係のないところで、主を守ることが仕事ですし、主の下の事情は他言無用です。むしろこの秘密を守ることができるかどうかが、我々に課された試練なのかもしれません……」
カルバンは苦笑しながらセルジオに囁いた。
今受けた衝撃を吐き出さずにはいられない。
たった一言で、秘密は暴露されるものなのだ。
「まさか、ジルコン王子がアデール国の姫と美人な若者を両手に囲っているとは思いませんでした。アンは、騎士候補の情報を、毎晩寝物語にでも話しているのでしょう。とんでもないジョーカーですね」
ルイは唇を引き結び絶句している。
彼の規範意識からは受け入れられないのだろう。
セルジオもなんだか泣きたくなる。
ジルコン王子の一言で5人が落とされることが決まったことよりもむしろ、ジルコン王子とアンとの親密さに衝撃を受けていた。
セルジオはその夜、アンとアンによく似た顔をしたアデールの姫とジルコン王子が三人で閨で絡み合う、淫靡な夢を見たのである。