特等席〜私だけが知っている彼〜
優しい口調で話す五十鈴だったが、その拳は震えている。幼なじみとしてずっとそばにいた椿芽にはわかった。五十鈴が今、どのような感情を胸に抱いているのかを……。

「……じゃあ、過失の割合はお互い五十にしようか」

椿芽は五十鈴の背中に手を回し、ニコリと笑う。人間とは不思議な生き物である。大好きな人に抱き締められただけで恐怖が薄れてしまうのだから……。

「うん、そうだね。犯人をすぐに捕まえてみせるよ。心当たりはあるから」

椿芽を抱き締めながら五十鈴は言う。犯人に心当たりがあるということに、椿芽は驚いてしまった。

「えっ、犯人わかってるの?」

「う〜ん。まだ確信ってわけじゃないんだけど……」

五十鈴は椿芽をゆっくりと離し、ジッと見つめる。見つめられ、椿芽の頬が赤く染まっていく。その頬を優しく撫でられ、椿芽の目の前で五十鈴は微笑んだ。

「約束する。何があっても、犯人が誰であっても、俺が椿芽を守るよ」

「ありがとう、五十鈴くん」
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