特等席〜私だけが知っている彼〜
「さっき買ったのは仕事用でしょ？こっちはプライベート用ってことで！」

五十鈴はそう言って微笑むと、そのワンピースを手にレジへと向かう。椿芽がかばんから財布を出そうとすると、「いいから」と止められ、五十鈴が支払ってくれた。

「五十鈴くん、ありがとう」

「いいの。今度デートする時に着てほしいな」

五十鈴はそう言い、椿芽の頭を優しく撫でる。その目はとても幸せそうで、椿芽の心の中も温かくなっていく。すると、椿芽のお腹がグウッと音を立てた。

「ご、ごめんなさい！」

恥ずかしさから椿芽の顔が真っ赤になる。五十鈴はクスクスと笑いながら、椿芽の手を優しく取った。

「俺もたくさん歩いたからお腹空いたし、ご飯食べよう。何食べたい？」

「う〜ん……。最近できたばっかりのパン屋さん行ってみたいかな。五十鈴くんは食べたいところある？」

「俺は、椿芽が食べたいものを食べたい。パン屋さんに行こっか」

手を取られたまま二人は歩き出す。椿芽は、周りから視線を向けられていることに気付いた。多くの女性たちが頬を赤く染めながら話しているのが見える。
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