特等席〜私だけが知っている彼〜
「今日は五十鈴くんは早く帰って来れるみたいだし、大好物のカレーピラフ作ろうかな〜」

マンションに帰る前にスーパーへと寄り、食材をカゴに入れていく。一緒に夕食を食べられることに椿芽は嬉しさを感じ、頬は自然と赤く染まっていた。

五十鈴が少しでもそばにいてくれるため、最近ではあの写真や手紙のことなど頭に浮かぶことはなくなっていた。保育園で子どもたちに教えた歌を鼻歌で歌いながら帰る。だが、マンションの前に来るとその歌はピタリと止み、微笑んでいた椿芽の顔は一気に驚いたものに変わっていく。

マンションのポストの前で、部屋で椿芽の帰りを待ってくれているはずの五十鈴が激しい怒りを見せながら何者かを拘束している。五十鈴が腕を掴んで地面に押さえ付けているのは、黒い服を着た女性のようだった。

「君、俺の大事な椿芽にあんな思いをさせてタダで済むと思ってるの？立派な脅迫とストーカーだよね？」

五十鈴が女性に怒りを含んだ声で話しかけている。ストーカーという言葉で椿芽はハッとし、二人に駆け寄る。
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