特等席〜私だけが知っている彼〜
「アイドルは、ファンの応援がなきゃ仕事はやって来ない。だからファンのみんなには誰よりも感謝してる。だけど、あんたみたいな勘違い人間にはお世辞でもお礼なんか言わない。俺は確かにアイドルだ。だけど、プライベートだってきちんとある。俺は椿芽をプライベートでは愛したいんだ!俺だって人だから、最愛の女性と普通の幸せを手にしたいって思う。……アイドルは、それを願うことは許されないの?」

女性の瞳が揺らぎ、口は閉ざされる。女性が静かになったところで、五十鈴は表情を少しだけ和らげて椿芽の方を向く。

「椿芽、この人が例の写真や手紙を送りつけていた人。雑誌記者で、Roseの取材とかもたまにしてた。結構なファンだったからちょっと疑ってたんだけど、まさか本当に犯人だったなんてね……」

「五十鈴くん……」

最愛の女性、そう五十鈴が言ったことに椿芽の胸は高鳴っていく。先ほどの恐怖など嘘のようだ。今すぐにでも五十鈴に抱き着きたい気持ちが溢れるもグッと堪え、椿芽は言われた通り警察を呼ぶ。
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