特等席〜私だけが知っている彼〜
数分後、やってきた警察によって記者は連行されていき、椿芽と五十鈴は軽く事情を警察官に訊かれた後、後日詳しい話を警察署ですることになり、部屋へと帰った。

「椿芽……」

玄関に入るなり、椿芽は五十鈴に強く抱き締められる。まだ靴すらお互いに脱いでいない。それを椿芽が言おうとすると、五十鈴の唇によって言葉を塞がれてしまった。

「んっ……ふっ……」

何度も唇を奪われ、椿芽の頭の中がクラリと蕩けていく。互いの吐息が静かな玄関に響き、五十鈴の手が椿芽の体を撫でていく。くすぐったさから椿芽は身をよじるも、五十鈴の腕が腰に巻き付けられ、動きを封じられていく。

「椿芽、これをあげる」

五十鈴が服のポケットから封筒を取り出し、椿芽に手渡す。その中に入っていたものに椿芽は目を見開く。

「五十鈴くん、これって……」

封筒の中身はRoseのライブチケットだった。しかも、席は誰もが取りたいと願う最前列である。
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