特等席〜私だけが知っている彼〜
五十鈴とキスをしながら、ボウッとする頭で椿芽は思う。このような五十鈴の姿を独り占めしているのは、自分だけなのだということを。

テレビの中でのアイドルとしての五十鈴は、しっかり者で冷静で、決して他の誰かに甘えることなどなく、一人称も「僕」と言い、礼儀正しい。だが、椿芽と二人きりになるとこんなにも甘えてくるのだ。

「椿芽……」

椿芽の頬を五十鈴が撫でる。五十鈴の目には熱がこもっており、椿芽は「五十鈴くん」と名前を呼び、体を起こして自分からキスをした。



翌朝、椿芽が目を覚ますとふわりといい匂いが漂ってくる。体にかけられた布団をどけ、何も身に纏っていない体に近くに落ちていた五十鈴のシャツを着ると、寝室のドアがノックされる。

「椿芽、起きてる?」

「おはよう、五十鈴くん」

椿芽がニコリと微笑むと、五十鈴の頬が赤く染まる。そして、椿芽の体は五十鈴の腕の中に閉じ込められてしまう。

「おはよう、椿芽。この家に帰って来られるの久しぶりだから、つい止められなくて……。俺は幸せだったけど。体、大丈夫?」
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