特等席〜私だけが知っている彼〜

おしゃれなカフェでは、男性より女性の数が圧倒的に多い。多くの女性ファンを持つRoseのメンバーがそんなところに行けば、見つかってしまう可能性の方が高いだろう。そのため、椿芽は家にいることを提案するのだが、五十鈴の顔はどこか納得いかないと言いたげなものだ。

「椿芽と会える時間の方が少ないんだし、デートしようよ〜。ちゃんとバレないように変装するし、迷惑かけないから」

五十鈴は椿芽の周りをうろつき、「お願い！お願い！」と言い始める。目を輝かせながら懇願する様は、まるで散歩を飼い主にねだる大型犬のようだ。

「お願い！お願い！行〜こ〜う〜よ〜！」

「ちょっと、五十鈴くん！」

椿芽が無視をしていると、五十鈴は勢いよく抱き付いてくる。背後にグリグリと頭を押し付けられ、「離してよ」と身動きが取れずに椿芽が言うも、五十鈴は離そうとしない。むしろさらに力を込められ、椿芽が折れるしかなかった。

「……バレそうになったら、すぐに帰るって約束してくれる？」