涙ノ結晶
「なんでってお前な、俺の話一言も聞いてねーだろ!」
『……聞いてたもん』
ぷくっと頬を膨らまし、聖を見る。
…本当は聞いてなかったけどね。
文句は便利な機能を作った携帯会社に言ってよ!
声も出さないし、メモ帳にも打ち込まなかったから、私のその反論は聖には届かない。
「じゃあ、俺はなんの話してたかわかるか?」
…予想外。
聞いてないのだから、わかるはずない。
そしてとっさに出た答えが、
『に、日本の経済状況…?』
その文字が打たれている、小さな携帯の画面を見た聖は、お腹を抱えて笑い出した。
「あははっ!…ちょ、おまっ…あははっ…日本の経済状況なんて俺が心配すると思うか普通っ…!」
その時の、聖の笑顔は見たこともない位晴れやかで、どこか幼くて見とれてしまったなんて聖には絶対言わない。
『どーせ聞いてなかったよ!ごめんね!』
半分やけになり、怒ったような口調。
だけど聖は未だに笑っている。
「お前なぁ…あはっ…俺が、真面目な話してたのによー」
『真面目な話?』
『そー。俺の、人生最大の失敗の話。』
それは、聖の腕に巻かれている包帯が関係していた。