スカーレットの悪女
「場所を変えよう。話したいことがある」



ついに主導権を兄貴から奪い取ったみーちゃんは、真剣な表情で俺たちを誘い出した。


応接間に場所を移すと、ローテーブルを囲むように設置されたソファに座ってみーちゃんが兄貴と向かい合う。


俺と理叶たちは後ろに立って、狼に対峙する小さな子猫がどう動くのか伺っていた。



「で、お前は荒瀬の状況を知った上でなぜ神木に手を出した。お前のことだから何か考えがあるんだろう」

「山城がマークする前にあの兄弟を救い出したかった。今ならまだ間に合う」

「何に?」



兄貴が間髪入れず質問したその時、みーちゃんは唇を噛んだ後、何かを覚悟したように口を開いた。



「極山は静観をやめて壱華を捨てる。
つまり神木に下される命令は、壱華の殺害。
そしてこのタイミングで鉄砲玉として白羽の矢が立つのは、すぐに捨て置ける神木しかいない」



“壱華の殺害”。断言したその言葉に、兄貴の顔が強ばった。


弱くなったな、兄貴。


仕事中は心の機微なんて見せないくせに、壱華ちゃんのことになると分かりやすく動揺している。
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