スカーレットの悪女
「……至急の用か」

「ええ、今すぐ聞いていただきたい、良い話です。壱華様のことで」



壱華との時間を邪魔されたと思って顔をしかめる志勇だったけど、壱華の名前が出た瞬間顔色を変えた。


はあ、さすがとんでもない壱華バカだわ。


まあ私も人のこと言えないんだけどね。



「なんだ」



うきうきして壱華から手を離して司水さんと横道に逸れる志勇を横目に、私と凛太郎も、門の外に待機している潮崎の車に乗ろうと石畳を歩く。



「壱華さまが貴方を好きになった理由についてですが、“ご自身を尊重してくれるから”だそうです」

「当たり前だ。俺は蝶よりも花よりも壱華を第一に考えてるからな」

「ですが初めてではありませんか。地位や外見ではなく、“荒瀬志勇自身”を好きになってくれた女性は」

「壱華は金と名誉に興味がねえんだよ。だからこそ苦労したが、その程度で落ちる女だったら俺がここまで惚れ込んでない」


志勇は壱華の話になると終始ニヤついて分かりやすい。



「兄貴……分かりやすい」



門の前に待機していた颯馬も私と全く同じ考えで、渋い顔をして志勇を見つめている。


颯馬がいるってことは剛さんもいるかな。


おそらく迎えの車の運転席にいるんだろう、ちょっと挨拶したいな。
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