スカーレットの悪女
「志勇、先に車に乗っておくからね」


石畳の中央でぽつんと残された壱華は、ご機嫌な志勇と、早く帰りたい颯馬の顔を見比べて颯馬の気持ちを汲み取ることにしたみたいだ。



「ん、ああ、乗ってろ。へぇ……ククッ、そうか」



志勇は壱華の話で盛り上がってるようでもう少し時間がかかりそうだ。


じゃあこの間に剛さんに挨拶しちゃおう。


そう思って門をくぐった先で、視界の隅に映った夕日が大きく不気味に膨れ上がっている気がした。



「実莉さん、どうしたんですか。俺も車に乗っておきますよ」

「あ、うん。その前に剛さんに挨拶しようと思って」

「剛さん?……あ、壱華さんどうぞ」

「ありがとう、気が利くね」



凛太郎は不自然に止まった私を見ながら、気を利かせて先回りし、壱華が乗る車の後部座席を開けてあげていた。


普段ならそこで凛太郎をからかってるはずだけど、既視感に疑問を抱いてそんな場合じゃなかった。




あれ、このシーンどこかで見た気がする。



< 277 / 807 >

この作品をシェア

pagetop