スカーレットの悪女
狙いは壱華だ。


そう判断した私は恐怖を振り切り、とっさに壱華に向かって「早く車の中に入って!」と叫んだ。


しかし突然のことに壱華も凛太郎も反応できず、状況を確認するために私のいる方を見た。


日本人の悪癖だ。平和な日本では自己防衛ができる人間が少ない。


壱華も凛太郎もそうだ。襲いかかる人間から逃れられる術なんて持ってない。


だから私が守らなきゃ。私は必死にわずかな距離を壱華目がけて走った。


一方私の声に顔色を変えた男は、それ以上近づくのをやめて、腕を肩の位置まで上げると、黒い物体を手に構えていた。




それは間違いなく──拳銃だった。




「壱華!」


その銃口は、壱華に向けられていた。
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