スカーレットの悪女
「理叶?」

「実莉、ひざ擦りむいてる」

「ああ、これくらい大丈夫だよ」



ひざ丈のワンピースだから見えなかったけど、座ったら私が怪我してることに気が付いたらしい。


実は私も、あの事件があってしばらくしてから自分が怪我してることを自覚した。


両ひざを派手に擦りむいてしまったけど、もう血は固まってるし、痛くないから放っておいても大丈夫。



「ちゃんと手当してやるからおいで」



そう思ったけど、理叶は優しく声をかけて立ち上がらせ、私を自室に招いてソファに座らせた。


光冴は救急箱を持って後から部屋に入って、大した怪我じゃないけど丁重に手当してくれた。


消毒液に触れた膝が痛い。


痛みは生きていることを実感させ、この世界がただの空想ではないと私に知らしめる。


不意に恐怖が足元から這い上がってきて、私の心を蝕んだ。


気がつけばぽたぽたと、膝の上に涙が落ちた。
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