スカーレットの悪女
「実莉、寝た?」



わたしは実莉と同じ寝室を使わせてもらっている。


そっと話しかけベッドに腰を下ろし、あどけない寝顔を眺める。


「ふふ、かわいい……」



わたしをいつだって導いてくれた明るい光。だけどその中に、いつか消えてしまいそうな儚さがある。


だからわたしがそばで見守らないといけないのに、今の私には実莉と同じくらい大切な存在ができてしまった。


荒瀬志勇。あの人はいつの間にか、わたしの心の大半を占めていた。


わたしにだけ見せる表情で、わたしにだけ一心に愛情を注いで、いつしか絆されて後戻りできない関係になった。


志勇が好き、どうしようもなく好き。この4日間、志勇と離れてみてそれを痛感した。


だけどこんなの、実莉の唯一の家族として失格だ。



「弱いお姉ちゃんでごめんね……」



実莉はわたしのせいで心労を抱えているのに。


わたしには秘密がある。それは志勇が教えてくれなくても、ひしひしと肌で感じていることだった。


だけど真実を知ることが怖い。


知ってしまえば、志勇の隣にいられなくなる気がする。


いつしか零れ落ちそうになった涙をこらえ、実莉の健やかな顔を見つめていた。
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