スカーレットの悪女
「ごめんね剛さん、痛くなかった?」

「あんなの羽虫が当たった程度だ」



一応叩かれた剛さんを心配したけど、屁でもなかったらしい。



「気にするな、実莉に傷を作らせるわけにはいかないからな」

「剛さん漢気ある……!」

「やだ剛カッコイイ……!」



ニカッと歯を見せて笑う剛さんに、私と颯馬は目を輝かせて褒め称えた。



「おだてても何も出ねえぞ」



剛さんはそう言ったけど嬉しそう。


そんな彼をニヤニヤ後ろから見つめながら、私と颯馬もその後を追って離れていた壱華と合流した。



「実莉、どこ行ってたの?」

「屋台に気を取られちゃって」



壱華は不思議そうに私たちを見て首を傾げる。


適当に流して持っていたコインケースから5円玉を探していると、志勇がふんと鼻を鳴らす音が聞こえた。



「色気より食い意地かよ。だからモテねえんだよお前は」



はいはい、この男は私に対して今年もこんな感じなわけね。


まあ、今日くらい大目に見てあげますか。


なんだかんだ言って、志勇が協力的なおかげで、これから起こるはずの悲劇を回避できたのだから。
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