スカーレットの悪女
「優人!」



手の届く距離まで数メートル。


腕を伸ばし走り出したその瞬間、無機質な発砲音が目の前から発せられる。


弾丸は顎先から頭蓋を突き抜け、一瞬にして優人の命を奪い去った。


4度目の銃声。優人は目の前で引き金を引き、自ら命を絶った。


それでもなお無我夢中で足を回転させ、アスファルトにうつぶせで倒れ込んだ優人のそばに走り寄った。



「優人、優人……なんで!?」



目の前で人が死んだ。


経験のない壮絶な衝撃にただ彼の名を呼ぶことしかできなかった。


不意に耳鳴りがして世界から音が消えた。


血の臭いにめまいがして視界がぐにゃりと歪む。



「……実莉!」



座り込んで息を止めたその時、遠くから壱華の声が聞こえた。
< 414 / 807 >

この作品をシェア

pagetop