スカーレットの悪女
やがて耳鳴りは消えて、視界が明瞭になった。


そして、ひとつの考えが頭に浮かんだ。


私を殺さなかった。それはつまり、優人は凛太朗を選んだということに他ならない。


優人は山城の命令に従わず、弟を生かすために画策したのだ。


形だけでも奇襲を仕掛ければ命令に従ったという扱いになり、計画に失敗したとしても弟に被害は及ばない。


死人に口なし。優人は自害を選ぶことで後始末に弟を巻き込まず終わらせたかったんだ。


でも、こんな最期あんまりだ。



「……凛太郎を選んだなら、生きてよ……」



こんな歪な愛の形を凛太朗は望んでない。


まだぬくもりの残る亡骸に放った、返答のない訴えは、白い吐息に紛れて虚しく浮遊した。
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