スカーレットの悪女
「実莉さん、こちらです」



赤星の声に振り返ると、彼は壱華を横抱きにして意外と丁寧に運んでいる。


この状況がもう何がなんだか分からなくて、志勇が見たら発狂しそうな光景だな、と現実逃避するしかなかった。



「お勤めごくろうさまです!」



玄関の外には、陽が落ちてきて冷え込んできたのに男たちが並んでいた。


彼らは赤星の顔を見るや否や、深く頭を下げて出迎える。


西雲会がこんな情熱的な組織だと思ってなくて、私はびっくりして立ち止まった。



「ただいま、皆息災でなによりです」



中には「赤星さん、生きててよかった」と震えた声でむせび泣く男もいて、大幹部ってこともあるけど、ずいぶん慕われている男なんだと意外だった。


それから旅館のような広い玄関に入って、ひたすら長い廊下を進む。



若頭(カシラ)、ただ今戻りました、赤星です」



赤星は襖に虎の描かれた部屋の前で止まり、部下のひとりがそっと襖を開けた。


こうしてついに、私は予想だにしていなかった覇王との邂逅(かいこう)を果たした。
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