スカーレットの悪女
しばらく思い詰めたように赤星の胸に抱かれる壱華を見つめていた望月は、不意に眉を上げてふざけたように口を開けた。


大きな口から猛獣を思わせる犬歯が覗き、怖いけど目を引く魅力があった。



「ありゃ、気絶させたん?言うたやん、手荒な真似はせんといてって」



望月は赤星と顔を合わせ、友達に話しかけるみたいに気軽に話しかける。


存外表情豊かで驚いた。


そういえばこの男、二面性があるんだっけ。



「熱があるらしく気分が優れないようです」

「ほな、はよ医者呼んで。大事な人質なんやから」

「もう呼んでいます」



会話を続ける望月の表情がころころ変わって感情が追い付かない。


この人懐っこそうな男が本当に“非道の覇王”なの?


とてもそう見えないと思った瞬間、望月が腰に手を当て大きなため息をついた。
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