スカーレットの悪女
荒瀬颯馬の背後から、ひとりの男が現れた。


まったく気配がなかったため、驚いて肩がビクッと跳ね上がった。


180cm以上はある恵まれた体格に、黒髪のスーツ姿の男。


目が離せないような端正な顔立ちだけど、感情が全く読めない。


長めの前髪から覗く、切れ長の目と漆黒の瞳。


闇に染まりきったその目が私を捉え、そいつが一歩一歩近づく度に、恐怖心に苛まれる。


格の違いがひんやりとした空気となって、痛いほどひしひしと伝わってくる。



「……荒瀬志勇……?」



これほどまで、美しく禍々しい存在に出会ったのは初めてだった。


間違いない、この男が……荒瀬組若頭の荒瀬志勇だ。
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