スカーレットの悪女
近づいて声をかけたけど、うわ言を呟いて起きる気配がない。


試しに用意してくれた体温計で熱を測ると、38度5分と表示された。


顔色がいいと思ったけど、熱は下がっていなかったようだ。


心因性の症状もあるのだろう。



「ごめんね、壱華……」



私は悔しさと情けなさに歯を食いしばった。


こうなると分かっていたのに防げなかった。


いや、可能性すら考えていなかった。


迂闊だった、この世界の残酷さは身をもって知っていたはずなのに。



「嫌、やめて……」

「壱華、大丈夫だから」



無力な私は、こうして壱華の手を握ることしかできない。



「……志勇」

「志勇は死なないよ。壱華が信じなくてどうするの」



せめて壱華の心の拠り所であろうと、普段と変わらない口調で声をかける。



「お姉ちゃん想いやな、血ぃ繋がってへんのに」



その時、不意に背後から男の声がした。
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