スカーレットの悪女
「てか、私が世界で一番大好きなお姉ちゃんを置いて逃げるわけないでしょ!」

「じゃあなんで縁側に出てきたん?」



望月の懐から抜け出して距離を取ると、奴は深夜2時を過ぎているというのにスーツを着ていた。


仕事終わりってことかな。こんな時間に駆り出されるなんて、ヤクザの若頭も楽じゃないんだな。



「部屋の中は息が詰まるから」

「ふーん、部屋が狭いのが嫌なら俺の部屋来る?話聞いたろか」

「そういう意味じゃないけど……」



望月は早く私に興味を失ってくれたらいいのに、そっと私の手を握った。


相変わらず冷たい手だと思ったけど、その時は不安を感じていたせいか人肌に触れることは嫌じゃなかった。



「ほなあったかいお茶でも入れてやるさかい、おいで」

「取ってつけたような関西弁やだ……」

「実莉ちゃんって思ったこと全部口に出るタイプやろ、おもろいわあ」



望月は陰気を吹き飛ばすような明るい笑顔を見せると、断り切れない私の腕を引いて自室に招いた。
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