スカーレットの悪女
「うるさい」



茶化されてる気がして振り返る。


望月は眉間にしわを寄せる私と対照的に微笑んでいた。


優しさを含むおだやかな笑みに目を奪われていると、口元が動いた。




「おやすみ、いい夢を」




望月から発せられたその言葉に、衝撃を受けて私は目を見張った。


それは……パパの口癖だった。


眠りに着く前、彼は笑みを添えてそう言っていた。


不意に、家族で手を取り合って幸せに生きていけると、本気で信じていた頃の鮮烈な思い出がよみがえった。


唐突な父の面影に涙が込み上げ、私は動揺を悟られないよう、その後は振り返ることなく自室に戻った。
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