スカーレットの悪女
「ふう……げっ」



トイレから出た廊下の曲がり角で望月と鉢合わせた。


ヒマなのかな。ああそっか、抗争が始まって危険だから迂闊に出歩けないんだっけ。


それは分かってるけど、なんでこいつは私の後ろをひな鳥みたく付いて回るんだろう。



「だから、なんでついてくんのよ!」

「昨日あの後寝れた?」



いっそ立ち止まったらどうなるのだろうと思って振り返ると、望月は首を傾げてそう訊いた。



「その節“だけ”はありがとうございました、望月さん」

「望月さんっていいにくいやろ?大希でええよ」



嫌味ったらしくだけ、を強調したけどスルーされた。


なんか子どもっぽい意地の張り方をしてしまって恥ずかしい。



「嫌だ、あんたと仲良くなりたくない」

「ええやん、俺も勝手に実莉ちゃんって呼んでるし」



望月は一歩前に出て近づくと、なぜか胡散臭い愛想笑いを浮かべた。
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