スカーレットの悪女
「お前をどうこうすることは簡単やけどな」


振り切ろうと速度を上げる。


しかし、お前なんて呼ばれたのは初めてで驚いて振り返った。


ほら、やっぱりこの男は分からない。


がらっと雰囲気が変わって、笑ってるくせにその目はちっとも笑っていなかった。



「実莉ちゃんは俺の手のひらの上ってこと、自覚せえよ」



何が望月の癪に障ったのだろう。


機嫌を伺うことがこんなに難しいと思った人間は、この世界では望月が始めてだ。


なんというか、この男には感情の予備動作がない。


例えば怒りを覚えた時、人はなんらかのシグナルを出すけど望月はそれすらない。


正直、感情を読むのは志勇より難解だ。



「……怯えもせんとは、気に入らんなぁ」



望月は横目で私を睨み、すれ違って壱華の部屋とは反対方向に歩いていった。
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