スカーレットの悪女
「私は物じゃないんだけど」

「じゃあ、お嫁さんにしたげるから大阪残って」



スキンシップに慣れてしまったことに内心驚きつつ、極道の妻なんてまっぴらごめんだと冷静に考えた。



「結構です。だいたい、あんたと結婚したら壱華と一緒にいられないじゃん」

「その辺はうまくカモフラージュするからいつでも会いに行ってええよ。実莉がどれだけ壱華が大好きなのか分かってる」

「とりあえず、あんたと結婚は絶対イヤ」

「あーあ、フラれてしもうた」



面と向かって拒否すると大希は目をつぶり、白い歯を見せて笑った。



「まあ俺、諦め悪いから」



力なくそう呟いた大希は、私と手を繋いだまま意識を手放した。


私の布団を陣取って寝床を奪われた。


叩き起こしてもう寝たいところだけど、大希の寝顔が見とれるほど綺麗でしばらく見つめていた。


騒がしかった部屋が静まり返り、その静寂の中で奇妙な感覚に包まれた。


大希のこと、今は心底うざったいって思うけど、別れたらさみしく感じる気がする。


この奇妙な感覚の正体を突き止めた時、それは私にとって最大の過ちになるだろう。


だからこれ以上考えない。今日はもう寝よう。


とはいっても寝床がないから、その日は壱華の布団にお邪魔して久々に一緒に寝た。
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