スカーレットの悪女
「早く髪乾かしてきなさいよ。風邪ひくよ」

「急に母ちゃんみたいなこと言うやん。昨日俺を放置プレイした人間とは思えんわ」

「誤解を招くことを言うな!」

「あっはは、実莉と話すの楽しい」



今日の大希は妙に浮ついている。なんかいいことでもあったかな。


大希って意外と態度に出るタイプだから。


その辺はいつ何時も仏頂面の志勇と違って分かりやすくて有難いなとは思う。


特に“お気に入り宣言”をされた時から分かりやすくて助かってる。



「なんか良いことあったの?」

「全体的に好転してきた。やっとツキが回って来たわ」



大希は不敵に笑って目つきを変える。


その笑みの裏で何を企んでいるんだろう。


こういう一面を見ると、この男が極道だと思い出す。


普段は気さくな分、裏の顔との落差に風邪を引きそうだ。



「へえ、じゃあ私たちも早く東京に戻れそう?」

「壱華は早めに帰せるんちゃう?」



人となりはなんとなく掴めてきたけど、大希を信用しているわけじゃない。


ふとした瞬間早く帰りたいって思ってしまう。



「え、私は?」

「帰したくない。贅沢させたげるから大阪残って」

「いくらお金積まれても嫌」



だからいくら言い寄られようが、迷うことはない。


大希は眉をハの字にして母性をくすぐる困り顔を作る。


狙った表情なのは分かり切ってるのに、髪が濡れてるせいかいつもと違った魅力に翻弄される。


絆されてなるもんか。私は大股で歩いて距離を取ろうとした。
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