スカーレットの悪女
「この傷、どうしたん」



大希はその傷を指でなぞって、真剣な表情で私に問いかける。


私はその手を押して払いのけ、ソファに座り直した。



「……話せば長くなる」

「ええよ」



距離を取ったはずが、大希はさらに詰めて座った。



「刺されたの、壱華をかばって」

「は?」



刺された、という単語に大希は顔をしかめる。


そうだよね、あの事件は荒瀬が、壱華の存在を周囲に知らしめないよう意図的にもみ消したのだから大希が知る由もない。



「刺した相手は実の姉で、姉を陥れて操ったのは極山だった。
姉は壱華を刺そうとして、私がそれを阻止しようと揉み合いになった拍子に持っていたナイフが刺さって……」



床に広がる血だまりを見つめて、死を覚悟したあの瞬間を思い出す。


当時の恐怖心を思い出し、深呼吸をして手をぎゅっと握って耐えた。
< 542 / 807 >

この作品をシェア

pagetop