スカーレットの悪女
「……痛かったやろ、これ」



すると大希は手を伸ばし傷跡がある箇所に触れる。


声色があまりにも優しくて、いつもの大希らしくなくて変な感じだった。


今度はいつもとアピールの仕方を変えて私を振り向かせようって魂胆だろうか。



「身体に傷がある人なんて、この世界じゃ珍しくないでしょ」

「それが実莉なら話は別」



しかし、顔を上げた先で見た大希の表情に見覚えがあった。


パパはよく、無茶をしたり強がる私を見て𠮟りつけるわけではなく、悲しそうな憂いを帯びた表情で諭してくれた。


大希はその時と同じ顔をしていた。



「よう頑張ったな、たった独りで」



言霊は深層心理の奥底に落ち、心のやわらかい部分をひどく揺さぶった。


ただ共感してくれただけなのに、傷ついた心をひた隠しにしていた私にとっては重みのある言葉だった。


大希の手のひらの温度が伝わって、不意に目頭が熱くなった。


視界がぼやけて鼻が痛い。急激な体の変化に驚いて瞬きをするとあふれた涙が雫になった。


零れ落ちた雫の一部は、大希の手の甲に落ちた。
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