スカーレットの悪女
「恋人が……志勇が目の前で撃たれて、ショックが大きいのは当たり前だと思う。私が逆の立場だったら、もし壱華が撃たれていたら私だって正気じゃいられなかったよ」



実莉はわたしをそっと抱き寄せて励まそうとしてくれる。


そのぬくもりは不安を徐々に溶かしていく。



「お姉ちゃん泣かしたん?悪い子やな」



ふたりで抱き合っていると、どこからともなく声がした。


驚いて周囲を見渡す。すると足音もなく望月さんがわたしたちに近づいてきていた。



「何をこそこそしてんのかと思えば……」



この人は怖い。志勇より複雑に混ざりあった闇色の目で見つめられると震え上がりそうになる。



「実莉はなんで俺を頼らへんの?俺ってそんなに信用できん?」



しかし、彼はひとたび実莉と関われば雰囲気が変わるからいつも拍子抜けしてしまう。



「あんたは見返り求めそうだから嫌なの!」



しかも、実莉は西雲会の若頭相手に平気に反論するし負けん気だ。


わたしはその様子を毎回ヒヤヒヤしながら見ている。



「見返りなんてないって。せめて俺に笑いかけてくれたら……あ、キスでもええよ」

「絶対ヤダ!そもそもこうなったのはあんたのせいだから!早く荒瀬に返してよ」

「嫌やん、そしたら実莉に会えんくなる」



望月さんが実莉を見つめる眼差しに見覚えがある。


これは、志勇が私を見る時の目だ。


もしかして、望月さんって実莉のこと……。
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