スカーレットの悪女
実莉にもらった湯たんぽのおかげでその日はよく眠れた。


大阪に来て初めてこんなにぐっすり眠れた気がする。


あくびをしながら伸びをして起き上がると、枕元に望月さんがあぐらをかいて座っていた。




「おはようさん」

「お、おはようございます……」



わたしは露骨に驚いて肩を強ばらせた。


なんでわたしの部屋にいるの?そしていつからわたしの寝顔を覗いていたの?


実莉にばかり熱を上げていたからわたしに興味ないと高を括っていた。


まずい、寝起きで頭が回らない。倦怠感に体もいうことをきいてくれそうにない。


だめだ、怯えるな。実莉を見習わなきゃ。こういう人に怯えている様子を見せていたら思うつぼ――



「実莉が寝てる間に、壱華に聞きたいことがあんねん」



と思ったけど、やっぱり彼の興味の的は実莉だった。


実莉の言う通りだ。西雲の若頭ともあろう男が、なぜこんなに実莉に執着するんだろう。



「なん、ですか」



やけに真剣な顔で訊いてくるからごくりと唾を飲み込んだ。



「……実莉って彼氏おるん?」

「……はぁ?」



しかし、ヤクザにもっとも似合わない恋バナに関する質問を繰り出してきたため、間抜けな声とともに肩の力が抜けた。
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